いてんきろく
移転記録

冒頭文

父の代に大久保百人町に越して来てから、私が、最近、西荻窪に自分の家を建てるまで、凡そ二十七八年間、私自身は殆ど年に一回平均居所を変へてゐる。 九州の連隊にはひつたり、本郷で下宿をしたり、西洋へ行つたりしたことは別として、父が死ぬまで住んでゐた中野新井の家を人手に渡し、下沼袋に母の隠居所を求めて、そこで最初の文筆生活にはひつてからこの方、私は、所謂中央線の沿線を「住みなれた土地」にしてしま

文字遣い

新字旧仮名

初出

「沿線 創刊号」1934(昭和9)年8月1日

底本

  • 岸田國士全集28
  • 岩波書店
  • 1992(平成4)年6月17日