ぶんげいとヒロイック
文芸とヒロイツク

冒頭文

自然主義といふ言葉とヒロイツクと云ふ文字は仙台平(せんだいひら)の袴と唐桟(とうざん)の前掛の様に懸け離れたものである。従つて自然主義を口にする人はヒロイツクを描かない。実際そんな形容のつく行為は二十世紀には無い筈だと頭(あたま)から極(き)めてかゝつてゐる。尤(もっと)もである。 けれども実際世の中にない又は少ないと云ふ事実と、馬鹿げてゐる、滑稽であると云ふ事実とは違ふべき筈である。吾

文字遣い

新字旧仮名

初出

「東京朝日新聞 文芸欄」1910(明治43)年7月19日

底本

  • 漱石全集 第十六巻
  • 岩波書店
  • 1995(平成7)年4月19日