一 浜野計蔵の家の応接間。 隠退せる高級官吏の格式と、憲法発布前後笈を負つて都に上つた人物の趣味とを語る室内の調度——例へば、維新元勲の書、地球儀、コロオの複写、硝子箱入の京人形、蝶の標本を額にしたもの等。 時は、大正八年頃の初春。 場所は、東京山の手の某区某町。 正面の窓からは、午後の日を受けた庭の一部が見え、赤い椿の花が植込の間からのぞいてゐる。 長男の計一と次男の紳二