ふうぞくじひょう
風俗時評

冒頭文

一 医院 医師  どうも不思議だねえ。どこも、なんともないが、それでも痛むかね? 患者  痛むかはひどいですよ、先生、このしかめつ面がわかりませんか! 医師  もともとさういふ顔かと思つとつたよ。どれ、もう一度見せなさい。こゝだね、押へてちや駄目だ、手をどけなくつちや……。これで痛むかね? 痛む? どういふ風に痛むね? 患者  いやだなあ、口で言へるやうなもんぢやありませんよ。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論 第五十一年第三号」1936(昭和11)年3月1日

底本

  • 岸田國士全集6
  • 岩波書店
  • 1991(平成3)年5月10日