ふじはおまけ(ラジオ・ドラマ)
富士はおまけ(ラヂオ・ドラマ)

冒頭文

富士を遠景に、霞のなかに浮ぶ峠の古風な掛茶屋。軒先に山桜の一株が綻び始めてゐます。 茶屋の主、東定臣が、ネルのシヤツにコオルテンの半ズボンを穿き、店の前の道を鍬で平(な)らしてゐます。時々、腰を伸ばし、空を見上げるのですが、やがて、 定臣  ああ、やつとこの峠にも春が来た。それにしても昨日までの冬はどこへ行つた? 満洲か? 西比利亜か? さうだ、ここんところ、東北の饑饉騒ぎで、兵隊さん

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋 第十三年第二号」1935(昭和10)年2月1日

底本

  • 岸田國士全集6
  • 岩波書店
  • 1991(平成3)年5月10日