やまのゆのたび ――はっぽおんせんのおもいで――
山の湯の旅 ――発甫温泉のおもいで――

冒頭文

○ 信州に発甫(はっぽ)という珍らしい地名の温泉地があります。絵を描く人々や、文士などの間には相当知られているようですが、一般にはまだ知れ渡ってはいないようです。それというのも、一つは土地が草深く里離れがしていて、辺鄙(へんぴ)なために少々淋しすぎるのと、もう一つは交通の便もあまりよくはないことと、それから温泉地としてみましても、新規な設備なども整っていないことが、しぜん都会人を呼びえない原

文字遣い

新字新仮名

初出

「大毎美術 第十四巻第七号」1935(昭和10)年7月

底本

  • 青眉抄・青眉抄拾遺
  • 講談社
  • 1976(昭和51)年11月10日