きたほてんぐのおもいで
北穂天狗の思い出

冒頭文

懐しまれるのは去年の六月信州北穂の天狗の湯へ旅をしたときの思い出である。 立夏過ぎ一日二日、一行は松篁はじめ数人、私は足が弱いので山腹から馬の背をかりることにした。馬の背の片側にお炬燵のやぐらを結えつけ座蒲団を敷いて私がはいり、一方には重さの調節をとるようにいろいろの荷物をつけている、自分ながら一寸ほほえましい古雅な図である。馬子もちょっと風変りな男であった。馬はゆっくり落葉松や白樺の林

文字遣い

新字新仮名

初出

「京都日出新聞」1935(昭和10)年7月30日

底本

  • 青帛の仙女
  • 同朋舎出版
  • 1996(平成8)年4月5日