「ひたいのおとこ」をよむ |
「額の男」を読む |
冒頭文
「それから」を脱稿したから取あへず前約を履行しやうと思つて「額の男」を讀んだ。讀んで仕舞つて愈批評をかく段になると忽ち胃に打撃を受けた。さうして二三日の間は殆ど人と口を利く元氣もない程の苦痛に囚へられた。漸く床の上に起き直つて、小机を蒲團の傍まで引張つて來て胃の膨滿を抑へながら、原稿紙に向かつた時は、もう世の中が秋の色を帶びてゐた。時機を失して著者に對しては甚だ濟まないと思つたが、書かないよりは増
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「大阪朝日新聞」1909(明治42)年9月5日
底本
- 漱石全集 第十一卷 評論 雜篇
- 岩波書店
- 1966(昭和41)年 10月24日