これめいゆうかな(ひとまく)
是名優哉(一幕)

冒頭文

男甲に扮する俳優 女乙に扮する女優 舞台は神戸のあるホテルの休憩室 男と女とが茶卓を挟んで向ひ合つてゐる。 男  (煙草の煙を大きく吐き)   たうとう日が暮れました。   あの船では、もう夕食の鐘を鳴らしてゐるでせう。   瀬戸内海の島々に灯が点く頃   日本を離れる人たちの胸は   一斉に締めつけられるのです。 女  (遠くを見つめながら)

文字遣い

新字旧仮名

初出

「悲劇喜劇 第四号」1929(昭和4)年1月1日

底本

  • 岸田國士全集4
  • 岩波書店
  • 1990(平成2)年9月10日