るす(ひとまく) |
留守(一幕) |
冒頭文
中流家庭の茶の間——奥の障子を隔てて台所——衣桁には、奥さんの不断着が、だらしなく掛かり、鏡台の上には、化粧品の瓶が、蓋を開けたまま乱雑に並んでゐる。 女中のお八重さんが、長火鉢にもたれて、講談本を読んでゐる。 台所で、「御免下さい」といふ女の声。 お八重さん (起つて行き)あら、もう、後じまひすんだの、早かつたのねえ。御覧なさい、あたしはまだ、そのままよ。どうせお帰りは遅いんだか
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文藝春秋 第五年第四号」1927(昭和2)年4月1日
底本
- 岸田國士全集3
- 岩波書店
- 1990(平成2)年5月8日