はせがわくんとよ
長谷川君と余

冒頭文

長谷川(はせがわ)君と余は互に名前を知るだけで、その他には何の接触もなかった。余が入社の当時すらも、長谷川君がすでにわが朝日の社員であるという事を知らなかったように記憶している。それを知り出したのは、どう云う機会であったか今は忘却してしまった。とにかく入社してもしばらくの間は顔を合わせずにいた。しかも長谷川君の家(うち)は西片町(にしかたまち)で、余も当時は同じ阿部(あべ)の屋敷内(やしきうち)に

文字遣い

新字新仮名

初出

「朝日新聞」1909(明治42)年8月

底本

  • 夏目漱石全集10
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年7月26日