ひがんすぎまで
彼岸過迄

冒頭文

彼岸過迄に就て 事実を読者の前に告白すると、去年の八月頃すでに自分の小説を紙上に連載すべきはずだったのである。ところが余り暑い盛りに大患後の身体(からだ)をぶっ通(とお)しに使うのはどんなものだろうという親切な心配をしてくれる人が出て来たので、それを好(い)い機会(しお)に、なお二箇月の暇を貪(むさぼ)ることにとりきめて貰ったのが原(もと)で、とうとうその二箇月が過去った十月にも筆を執(

文字遣い

新字新仮名

初出

「朝日新聞」1912(明治45)年1~4月

底本

  • 夏目漱石全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1988(昭和63)年3月29日