のわき
野分

冒頭文

一 白井道也(しらいどうや)は文学者である。 八年前(まえ)大学を卒業してから田舎(いなか)の中学を二三箇所(かしょ)流して歩いた末、去年の春飄然(ひょうぜん)と東京へ戻って来た。流すとは門附(かどづけ)に用いる言葉で飄然とは徂徠(そらい)に拘(かか)わらぬ意味とも取れる。道也の進退をかく形容するの適否は作者といえども受合わぬ。縺(もつ)れたる糸の片端(かたはし)も眼を着(ちゃく)

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス」1907(明治40)年1月

底本

  • 夏目漱石全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年12月1日